文責 研修医S.K
七月、私は訪問診療を行うクリニックで地域医療研修を行っていた。
六朝時代の陳延之の著書『小品方』に「上医医国、中医医民、下医医病」という文言があり、ザックリ訳せば「すぐれた医師はまず国を治し、人や病を診るのはその次である」という。国を治すとはなんのこっちゃと思うが、現代で言うなら厚労省の医系技官あたりになり公衆衛生を推進したりすることを指すのだろう。だが、それがより優れているというのは本当だろうか。
私の両親は地方の開業医で、夜中でも患者の家に呼ばれていく父を、スーパーで「先生」と親しげに声をかけられる母を、子供の頃からよく見てきた。クリニックの先生方の姿に、その両親の姿がオーバーラップした。
思えば、この記憶が私にとっての「医師」の姿だ。
国を動かす力があるわけでもなく、難病を治療する奇跡の腕があるわけでもない。でも、多くの人が初めて出会う「医師」とは、そして、医師を志すときその人の胸にあるのは、ひたすらに目の前の人を診る彼らの姿ではないのか。
国は人があって初めて国となる。
私は、私の「医師」の原点の姿を、たとえ今後どんな進路を選ぼうと忘れずにいきたいと思った。